essay

Nature に筆頭で出して、英国でパーマネントの職も得たけど、やりがいがなくなったので辞めます

いわゆる退職エントリ。構造生物学のデータ解析を専門とする staff scientist としてのアイデンティティとその困難について。

私が講義を受ける態度を学んだひと

何年も下書きに眠っていた原稿を公開:私も高校までは、講義を受ける時、特に積極的な学生ではなかった。むしろ引っ込み思案で、先生が「◯◯が分かる人いますか?」と訊いても、わざわざ手を挙げたりしない、典型的な"日本人型"学生だった。欧米は違う。NHK で…

世界が美しいとき

私の精神状態は、2週間程度の周期で変動する。ここに書くエッセイは、たいてい「悪い」状態の時に書いている。良い状態の時には、論文を読むとかプログラムを書くとか、もっと生産的なことに集中できるし、書く記事も技術的なメモになるからだ。とはいえ、私…

「本質的なことをやりなさい」

研究者になることから挫折したと言ったが、学部時代、「研究」に憧れを持っていたころの思い出を書こう*1。2023/11/6 追記: この記事を書いて 10 年近くになり、相変わらずアカデミアにいるが、自分のアイデンティティは「新しいことを見つける研究者」では…

私が実験科学から脱落した3つの生物学的要因

「下書き」に2年近く眠っていた記事を一気に放出。本記事はそれなりにまとまっているが、本日の他の投稿は全て未完。 はじめに 私は、何度も書いているように予期不安が強い。それに加えて不注意である。私が実験科学から脱落した一因はこういう生物学的特性…

dry の感覚・wet の感覚

しばしば実験系の研究者から「しょせんシミュレーションでしょ」という言葉を聞く。「このモデルでは○○の影響が考慮されていないじゃないか! 話にならない」などと言われる。実際、私も昔はそう思っていた。論文を見ても、実験による validation との一致率…

科学ソフトウェアがオープンであること

某三文字の積分ソフトは、ユーザとしては好きだけど、ソースコードが公開されていないのがやはり気に入らない。パイプラインの一部として使うのはいいけど、それ自体の開発には関わりたくない。ccp4 や Phenix みたいに、academic 以外は有料という意味で「…

論文の粒度が大きすぎでやってられない

最近、論文の粒度 granularity *1 が大きすぎると感じる。1つの論文に求められる情報量が多すぎて、書きにくい。やってられない。これが、私が研究者を目指すのをやめた理由の一つである。そもそも論文は、科学の知識体系に何かを付け加えるために書くものだ…

アタマと手

先日 Twitter で、実験科学はアタマを使わないのではないか――という発言があって、賛否両論を呼んでいた。それについて私の考えとして発言したことをまとめておく。もちろん実験科学でもアタマを使う。しかし、アタマがいくら働いていても手を動かさないと何…

私の目標

以前、『将来に希望や欲望を持たない』と書いた。「諦める、いや逃げ出すことで精神安定を図ってきました」という記事も書いた。その上で、実現可能性はともかく、目標らしきもの、あるいは理想があるとすれば、 どんな回折画像が与えられてもそれが構造解析…

科学と宗教

「科学と宗教」なんて大仰なタイトルをでっち上げたが、私的な体験談である。言うまでもないことだが、特定の宗教を云々するのが目的ではなく、新しい考え方に触れて自分はこう考えた、という記録を残すのが目的である。なお後で調べて知ったのだが、ここに…

ラボの分析装置を hack して便利にした話――研究以外でもプログラマがどう研究に貢献できるか

以前所属していたラボで書いたプログラムの話をする。学問的な見所はほとんどないけれど、プログラマとしては愉快なタスクだったし、ラボの仕事の効率化に少なからず貢献できたと思っている。これらのプログラムは、今でもほぼ毎日使われているはずだ。エピ…

科学の先端と接触していたい

私はいわゆる「研究者」、特に「職業研究者」としてやっていくことは諦めた。種々の困難に負けて挫折したというのが半分、性格的にも向いてないと自覚したのが半分だ。#この辺は、ぼちぼち書いていきたい例えば、プロ野球の監督になるという夢を持っていた…

ガーベジコレクションをネタにSFを

大学1年か2年の頃、ガーベジコレクション (GC) の諸手法を知った時に、これをネタにSFが書けそうだなと思った。未来のディストピアで、定期的に人間がガーベジ・コレクションによって処分されていく世界。ちょうど教養科目で哲学を取ったり、医学概論で医の…

ブレーキが掛かる

調子が悪いときには、何事にもブレーキがかかる。つかの間、面白いと感じていても、「それが何になる?」という思いが到来する。難しい問題に取り組んでいても、「だから何だ?」と感じて、どうでも良くなってしまう。(このことは 以前 も書いた)先日は、自分…

結果の解釈可能性について

相変わらずつながりの悪いバラバラとした文章の書きなぐりだが、いつまでも下書きに溜め込んでいても仕方がないので、公開してしまう。 最近感じている、「技術としては面白いけれど、結果自体には興味が持てない」感覚を、なんとか言語化しようと試みたが、…

明晰な時間

持病のせいで、頭が澄んだ明晰な時間は週にわずかしか得られない。他の時間は、ゴチャゴチャしたものが頭を占拠していて、何も考えられない。明晰な時間には、論文を読み、労を厭わず鉛筆を手にとって計算し、プログラムとして実装できる。試行錯誤も苦にな…

書くわけ

黒歴史になることは確定的なのに、なぜ鬱発言を書き連ねているのか整理しておく。1つは、認知心理療法的な効果があるから。自分の中でもやもやしたものを文章として吐き出して目に見える形にする。書いたものが溜まっていくにつれて、「そういえば、これは以…

スキルが足りない

圧倒的にスキルが足りないのは分かっているが、どうやって訓練したらいいのか分からない。一言でいえば、経験を積むしかないのだろう。経験を積むためには、経験を得られる(=症例豊富な)環境に行かなければならない。だが、そのためには、自分のスキルを実力…

スルースキル

ネットでは、「スルースキル」なるものが重要らしい。ギョッとする/ムッとする意見を見かけても、いちいち反論を吹っ掛けたりしない程度の煽り耐性はあるつもりだが、それでも「世間にはこんな攻撃的/差別的/etc な事を言う人がいる」と厭世的な気分になった…

手作業の魅力

X線結晶学の解析のステップには、手作業で人間が操作・介入する職人芸的なところが残っているのが嬉しい。積分でのちょっとしたコツでデータが綺麗になったり、分子置換でのモデル選択や探索順序の指定といった調節で、今まで見つからなかった解が見つかった…

動機における他者の存在

以前、何かのために何かをするのは嫌だという話を書いた。自分が何かを学ぶのは、試験に通りたいからでも、手に職をつけるためでもなくて、それ自体が面白いからである。私は無邪気にそう思い込んできたけれど、ここ2年ほど、時々不純などす黒いものが混ざる…

記憶をダンプしておく

思い出を書き出していこうと思った。1つ1つにオチをつけて「面白い読み物」を書こうと思ったり、教訓めいた結論を引き出すのが目的ではない。昔話の常で説教臭くなってしまいがちだが、なるべくそうならぬように努力する。動機はむしろ、私が死んだら消えて…

自分にとって、つまらないこと・無意味なこと

自分が興味を持てない事柄を「☓☓なんてつまらないよ」とつい言ってしまうことがある。「○○をしたほうが楽しいよ」とか。別に☓☓を貶そうと思っているわけではなく、純粋に○○が好きだから勧めているだけなのだが、言われた方からすれば、かなり不愉快かもしれ…

予期不安と論理と厭世感

長らく「下書き」に眠っていた文章を公開しておこう。中二病的内容につき、注意! 今(2013/10/27)は、留学によるテンションの高さでカバーしているが、本質的には一週間前ほどからやや悪い相が始まっている。専門家に言わせると、私の問題の本質は強迫性だそ…

何かのために何かをする

「下書き」放出第2段。中島敦の「かめれおん日記」は、ほんの数カ月前に出会ったばかりの作品だが、まるで自分のことが書いてあるかのように心に染みいる。青空文庫から引用しよう: 又、ものを一つの系列――或る目的へと向つて排列された一つの順序――として理…

太宰治「猿面冠者」

太宰治の「猿面冠者」を読んだ。学校の英作文で褒められて有頂天になるところ、自信作の小説を街中に喧伝した挙句、酷評されてショックをうけるところなど、ユーモアを感じるとともに、誰もが自分の「黒歴史」に触れられた気持ちになるのではなかろうか。気…

○○も勉強すべきですか?

The anatomy of successful computational biology software Nat. Biotechnology (2013) を講義で紹介された。bioinformatics の有名ツールの開発者へのインタビュー集である。Open Access なので一読されたい。プログラムが成功するための秘訣、他の分野の…

京都について―聖地としての面から

9年半を過ごした京都という町について何かを書いてみたくなった。今も京都大学に籍が残っているとはいえ渡英するにあたって下宿を引き払ってしまったから、既に京都に私の居場所はない。そう書くと、イギリスの住居探しと違って京都には下宿屋も物件もいくら…

フランスとイギリスの風景の違い

来る途中の飛行機から見下ろしていて気がついたことである。実際にフランスの田舎を歩いたわけではないので、全く的外れなことを言っているかもしれないが……空から見ると、どちらの国も畑が多い。大都市のすぐ外側でも畑が広がっている。平野が多いからかも…