数学

ベクトルを転置したものの積について

自明なことだけれど、こういう表記でつまづく人がいるのはもったいないので、ここに明記しておく。, とするとき、 は内積である。一方、 は要素ずつの積を並べた行列である。 この行列の各列は に をかけたものに過ぎないから、お互いに定数倍である。したが…

方向ベクトルの表現について

長さが 1 の方位ベクトル (x, y, z) を表現したい場合がある。長さが1だから、自由度は 2 である。しかし、x と y 成分を与えても、z の値は南半球と北半球の二通り あって、一意には決まらない。つまり、これは筋が悪い表現方法である。非線形最小二乗法な…

parallax correction

検出器のセンサー層(CMOS では Si)には有限の厚みがある。これが、高角スポットに半径方向への広がり radial streak を引き起こしたり、高角強度の過大評価につながる。検出器距離(センサの手前まで)を D, 反射角を , センサの厚さを d とすると、センサ層の…

内積や外積の偏微分

簡単だが、後の参照用にまとめておこう。つまり、積の微分の公式が成り立つ。つまり、こちらも積の微分公式が成り立つ。

方位行列の偏微分

以前に書いた方位行列の偏微分を求めておこう。 となるような方位行列を計算すると、 となるのだった。これを偏微分していく。ただし、 の形も使う。ここまでは楽勝。以下、検算してない(上も保証はできないけれど)ここもなんとか。問題は の偏微分であるが…

指数の正規化、あるいは、asymmetric unit への変換

マージする時や mtz ファイルを解釈する時など、与えられた指数を標準的な asymmetric unit 内の指数に変換する必要が生じる。もっとも単純なアルゴリズムは以下のとおり。 あらかじめ点群における対称操作 を列挙しておく 与えられた指数 h に、上の対称操…

無限小回転

続けて、無限小回転を手を動かして確認する。x 軸周りに x 回す回転 Rx は、 と表される。同様に、y 軸、z 軸周りの回転も となる。これらを続けて行った結果は大変ヤヤコシイので、以降では maxima で計算する。 (%i17) Rx: matrix([cos(x), -sin(x), 0],[s…

Orthogonalization matrix の導出と、格子定数による偏微分

Orthogonalization matrix の計算法を書いておく。となるように、行列の成分を決めたい。(X, Y, Z) はデカルト座標系での座標であり、(x, y, z) は結晶軸に沿った分数座標である。まず、標準方位として、a 軸の方向が x 軸正の方向と一致し、b 軸が x, y 平…

Rodrigues space による回転の表現と GrainSpotter

3次元空間で、原点を始点とするベクトル u を、原点を始点とする別のベクトル v に重ねる回転は無数にある。u, v に直交する軸で回転させるのが直感的かもしれないが、回転した後にさらに v を軸に任意に回転させることができる。また、原点を頂点として、u,…

正二十面体対称性について

6/21 に Twitter に書いた事から再録。ウィルスの殼で見られる正二十面体対称性 icosahedral symmetry がやっと理解できた。幾何が苦手で、いつもすっきりしなかったのだ。 向かい合う面の中央を貫く3回軸が 20 / 2 = 10本 向かい合う頂点を貫いて5回軸が 12…

中心極限定理と安定分布

初等的な中心極限定理 CLT の説明では、i.i.d な(=共通の母分布から独立にサンプルした)確率変数の和について述べているが、条件を緩めて i.i.d を外すことができる。これがLyapunov 型 CLTである。構造因子の和が二次元正規分布になることを示すのに使うの…

畳み込みの定理による回折像の理解

単位胞の Fraunhofer 回折像は、フーリエ変換である。単位胞そのものは周期性を持たないので、フーリエ変換は連続である。空間に無限に広がる理想結晶は、単位胞とパルス列の畳み込みで表される。その回折像は、単位胞のフーリエ変換と、パルス列のフーリエ…

P3 の演算子の表現が整数になるわけ

空間群 P3 における 120度回転の演算子が (-y, x - y) であるのが不思議であるという話を聞いた。私も同じことを昔思っていたが、別にどうということはない。分数座標で考えるからそうなるのである。 120 度の回転は、複素数で考えると となり、明らかにルー…

実空間と逆空間の対称性について

教科書的な内容だが、TeX 形式の式があったほうが何かと便利なのでまとめた。誤植指摘希望。 逆空間の対称性 ある空間群を考え、そこに N 個の元、すなわち対称操作 があるとする。以下では、便宜のため、(単位元)としよう。すると、単位胞 unit cell のうち…

偏微分の変数変換

これも荒いが、下書きが増えすぎているので公開してしまおう。EMAN 氏の http://homepage2.nifty.com/eman/analytic/bibun.html を Maxima でなぞってみる。なお、実用的には以前の記事の方がはるかに簡単。 define(x(r,t,p), r*sin(t)*cos(p)); define(y(r,…

R の離散フーリエ変換

R で離散フーリエ変換を行う方法は以前にも確認したが、DFT には 1/N をつける位置などにいろいろな流儀があってややこしい。一歩一歩内容を確認しながら検証した。 一次元 N <- 128 x <- seq(from=0,length.out=N, by=1/N) v <- 2 + 3 * sin(x * 2 * 2 * pi…

推定量のもろもろ

不偏推定量についてやっと腑に落ちてきたのでまとめてみる。ほとんど英語版 Wikipedia の Estimator bias の受け売りだが、自分の言葉で書いてみる。まず「目的意識」の設定。母数(パラメータとも言う) を持つ確率分布 があって、そこから独立に確率変数 が…

最小二乗法と最尤推定

1年近く下書きに眠っていたのを公開。これは統計的手法を真面目に勉強しはじめて、最初に「面白いな」と思った事柄だから、思い出深い。最小二乗法という昔から知っていた手法が、最尤推定という自分にとって目新しい知識とつながる体験は快かった。回帰とは…

Fraunhofer 回折

X線結晶学が扱うのは、Fraunhofer 回折の領域である。その導出について、(自分にとって)直感的かつ初等的な説明が見当たらず、長年モヤモヤしていたのだが、先日(昨年10月ごろ)腑に落ちたので書いておく。座標 O(0, 0) と P(d, 0) に2つの原子があるとする。…

Harker section の定義

昔の ccp4bb で、Harker section の定義が話題になっていた。[ccp4bb]: Definition of Harker vector & section? から始まるスレッドである。回転軸に垂直だが格子の基本ベクトルに垂直ではない面(u + v = 0 など) も数学的には Harker section と呼ぶべきだ…

反射の epsilon factor

続けて反射の epsilon factor についても確認した。これも、空間群と指数の関数である。ある反射の epsilon factor とは、cctbx のソースコード cctbx/sgtbx/space_group.h で The factor epsilon counts the number of times a Miller index h is mapped on…

反射の多重度 multiplicity

反射の多重度 multiplicity について確認した。これは、空間群と指数の関数である。ある反射の multiplicity とは、逆空間の対称性によってその反射に重なる反射がいくつあるかを言う。逆に言うと、その反射に対称操作を適用した時、何通りの逆格子点に移る…

Harker section

Patterson 図における Harker section とは、空間群の対称操作によって関連付けられる原子同士の差ベクトル (self vector) が出現する平面である。例えば空間群 P2 では、 演算子 実空間 元の点との差ベクトル I (恒等操作) (x, y, z) (0, 0, 0) 2 (b 軸に一…

畳み込み演算の化学への応用

ドッキングシミュレーション等で、二つの分子表面の相補性の良さを計算することがある。Katchalski-Katzir algorithm では、これを FFT を使って高速に行う。三次元空間において、蛋白質Aの表面なら1,外部なら0という関数 を考える。同様に、蛋白質Bについて…

同型置換のパターソン関数の原点

同型置換法では、蛋白質のみ(native; P) と蛋白質の重原子誘導体(PH) の反射強度を測定し、ここから重原子の構造因子(H)を推定するのが第一歩となる。この時、二つの反射強度を同じスケールに載せる必要があり、そのためのプログラムとして SCALEIT や FHSCA…

回折がフーリエ変換になること

Inkscape で矢印を描く - biochem_fan's noteで書いたように、Inkscape で矢印をつくるテクニックを身につけたので、もう1つ作図した。任意の物体による波動の散乱が、散乱体の密度のフーリエ変換になることの確認である。図のように、左から完全に並行でコ…

原子散乱因子のGaussian展開

原子散乱因子のうち、異常分散の影響を受けない項 は角度に (sin theta over lambda で stol と略される)の形で依存する。これを、ガウス関数の和に展開してとして扱うことが多い。係数は、電子の波動関数を Gaussian-type orbital を基底にして量子化学計算…

ラプラシアンの極座標表示

ラプラシアンの極座標表示は、水素様原子のシュレーディンガー方程式を解く所などで必要となるが、手計算は非常に面倒である。Maxima での計算も普通にやろうとすると容易ではないが、ベクトル解析用の vect パッケージを使うと簡単にできるとのこと(Support…

極座標のヤコビアン

三次元空間の極座標表示は、 となる。そのヤコビアンの計算は手計算でも十分可能(たとえば 極座標のヤコビ行列とヤコビアン : 3次元 - 倭算数理研究所 参照)だが、練習のため Maxima でやってみる。 (%i3) jacobian([r*sin(theta)*cos(phi), r*sin(theta)*s…

複素関数の絶対値の微分

精密化では、構造因子を原子座標について偏微分したりすることがある。