回折がフーリエ変換になること

Inkscape で矢印を描く - biochem_fan's noteで書いたように、Inkscape で矢印をつくるテクニックを身につけたので、もう1つ作図した。任意の物体による波動の散乱が、散乱体の密度のフーリエ変換になることの確認である。

図のように、左から完全に並行でコヒーレントなX線が物体に入射しているとする。入射ビームの波数ベクトルを \mathbf{S_0} としよう。\mathbf{S_1} の方向、無限遠にある検出器に向かって散乱されるビームの位相の強度と位相はどうなるか。

原点 \mathbf{O} で散乱されたビームの位相を基準(0)に取ろう。点 \mathbf{r} で散乱されたビームの強度は、その地点での電子密度 \rho(\mathbf{r}) に比例する。位相は、原点での散乱との光路差を考えればよい。\mathbf{O} を通る経路と \mathbf{r} を通る経路は入射も反射も並行なので、光源から左側の点線までと、右側の点線から検出器までの間に光路差は存在しない。結局違いはというと、赤線の部分だけ長くて青線の部分だけ短いことになる。

赤線の部分は、\mathbf{r}\mathbf{S_0} への射影、青線の部分は \mathbf{S_1} への射影なので、位相差は\mathbf{r}\cdot\mathbf{S_0} - \mathbf{r}\cdot\mathbf{S_1} = \mathbf{r}\cdot(\mathbf{S_0} - \mathbf{S_1}) となる。 \mathbf{S} = \mathbf{S_1} - \mathbf{S_0}として散乱ベクトルを定義すれば、位相差は、散乱ベクトルと散乱点の内積にマイナスをつけたものとなることが分かる。

検出器への散乱は、物体の全地点からの散乱寄与の合計となるので、

 \mathbf{F(S)} = \int \rho(\mathbf{r}) e^{-i \mathbf{r}\cdot\mathbf{S}} d\mathbf{r}

となる。これは\rho(\mathbf{r})フーリエ変換にほかならない(2π は、波数ベクトルの中に入っている)。

さて、ここまでがいわゆる教科書的説明だが、「\mathbf{S_1} の方向、無限遠にある検出器に向かって散乱されるビーム」という部分にゴマカシがある。散乱されたビームが並行であれば、検出器上で一点に収束しないではないか! 実際には、 \mathbf{r} に比べて検出器がはるか遠方にあるため、並行だと近似してもよいことになっている。光学における Fraunhofer diffraction というやつだ。とはいえ、このままでは気持ち悪いので、実際、どのくらいの精度がある近似なのか、きちんと確認しておきたい。# TODO!