中心極限定理と安定分布

初等的な中心極限定理 CLT の説明では、i.i.d な(=共通の母分布から独立にサンプルした)確率変数の和について述べているが、条件を緩めて i.i.d を外すことができる。これがLyapunov 型 CLTである。構造因子の和が二次元正規分布になることを示すのに使うのはこちらである。

Randy Read 氏の講義資料 Structure factor statistics を参考にやってみよう。原子 i からの構造因子への寄与は f_i e^{2\pi i \mathbf{s}\cdot\mathbf{r}_i} である(原子散乱因子 f_i の分解能への依存性は表記しないことにする)。原子の位置が不明であるから、\mathbf{r}_i が確率変数である。これは複素平面上で、半径 f_i の円周上の均一分布である。したがって、重心(平均)は原点である。分散は、実軸・虚軸それぞれについて、
\int_0^{2\pi}\frac{f_i^2\cos^2\theta}{2\pi}d\theta = f_i^2 / 2
となる。共分散は、
\int_0^{2\pi}\frac{f_i^2\cos\theta\sin\theta}{2\pi} d\theta = 0
である。単位胞からの散乱は、これらの和であるが、中心極限定理により、平均は平均の和でやはり0。分散は分散の和なので、それぞれの方向について\sum f_i^2 / 2 であり、共分散は0である。つまり、等方的な(傾いていない)正規分布になる。ここで、1つ1つの構造因子について、実部と虚部は sin と cos という「強い関係」があるにもかかわらず、共分散は(相関係数も)0になってしまうことに注意されたい。「情報量」的な意味では、実部と虚部は独立ではないが、2次のモーメントとしては0なのである。

以前証明したように、正規分布の和も正規分布となる(再生性)。こういう性質を持つ分布を安定分布という。安定分布の一般形は、特性関数を使って表現できる。特性関数は、確率密度関数フーリエ変換である。ちなみに、積率母関数(モーメント母関数)は確率密度関数ラプラス変換だ。

分散の存在しない分布からサンプルした確率変数の和では中心極限定理が成立しないことがあるが、安定分布を attractor に持つ。これが一般化中心極限定理である。