Patterson 図における Harker section とは、空間群の対称操作によって関連付けられる原子同士の差ベクトル (self vector) が出現する平面である。
例えば空間群 P2 では、
演算子 | 実空間 | 元の点との差ベクトル |
I (恒等操作) | (x, y, z) | (0, 0, 0) |
2 (b 軸に一致した2回軸) | (-x, y, -z) | (2x, 0, 2z) |
となり、差ベクトルは y = 0 の断面に出現することが分かる。これを Harker section という。
底心センタリングを加えて C2 にすると、
演算子 | 実空間 | 元の点との差ベクトル |
I (恒等操作) | (x, y, z) | (0, 0, 0) |
2 (b 軸に一致した2回軸) | (-x, y, -z) | (2x, 0, 2z) |
I+C (センタリング) | (x + 1/2, y + 1/2, z) | (-1/2, -1/2, 0) |
2+C= (2回軸+センタリング=軸) | (-x + 1/2, y + 1/2, -z) | (2x - 1/2, -1/2, 2z) |
となるから、y = -1/2、あるいは1格子分シフトした y = 1/2 も Harker section である。
ちなみに、上の表で (-x, y, -z) と (x + 1/2, y + 1/2, z) の差を考えてみると (2x + 1/2, 1/2, 2z) となるから、格子をシフトして (2x - 1/2, -1/2, 2z) と一致する。空間群によって対応付けられる点(equivalent position)は周りの環境が等価なので、対称操作後のある1点とその他の点のペアで差ベクトルを考えても、元の点 (x, y, z)とその他の点のペアで差を考えても同じ事である。つまり、空間群にN個の元(equivalent position)があるとすると、どれか1つを固定して、それと残りのN-1個のペアを考えれば十分である。非対称単位のなかに M個の異なる原子があった場合、クロスベクトルが N(N-1) 個存在するという話と混同しないこと。
――と言葉では説明できるのだが、代数的に証明しようとするとうまく行かない。対称操作を としてベクトルに作用させるとして、差ベクトルは
である。 が元の空間群の元であることを言えば証明終わりなのだが、ここでの「+」や「-」は、空間群としての演算(=対称操作を重ねがけする。積)ではないため、「群が演算で閉じているから」という論法が使えそうにない。ご意見求む。