pragma omp
RELION のコア部分の並列化に深刻なバグがある模様。
CMake の使い方に問題があって -fopenmp
が NVCC に渡らず、#pragma omp critical
が静かに無視されている気配。したがって、各スレッドの結果を集約するところの排他制御が効かず、あかんことになっている。プロジェクト全体で OpenMP が無効化されているのなら遅くなるだけで済んだのだが、NVCC 使わないで直接 GCC なり ICC なりでコンパイルされる部分は OpenMP がちゃんと効いていてスレッドが立ち上がってしまうのでまずい。
読んだ
生物物理学会誌 「今がチャンス!」
雑事を AI に任せる・あるい補助してもらうことによってより本質的なことに専念できるというよく見かける論調には概ね同意するものの、何が雑事で何が本質的なことかは人によって異なるという点にも注意したい。例えば、英語で論文を読んだり書くことは、情報を入出力したいだけの人にとっては本質的ではない雑事であって機械翻訳に任せたいことかもしれないが、英語として自然な表現を考えたり身につけること自体に面白さを見出す人もいるだろう。生物物理学会誌 「キャリアデザイン談話室 (19) 一人の計算科学者の体験談」
REMD 法、MD 計算パッケージ GENESIS の開発などで知られる理研の杉田さんのエッセイ。知っている人の名前もいろいろ出てきて面白かった。一方で、なんで実務を離れて PI になろうとしたのかは分からなかった。生物物理学会誌 「呼吸鎖酵素に隠された新規アロステリーが導く特異的抗菌薬の創出」
日本でもこういう in silico スクリーニング・in vitro スクリーニング・構造解析・MD 計算などを連携させた研究をできる人がいることに驚いた。まあ、本当に耐性や副作用が出にくいかという治療への応用性については、この記事の範囲では未知数だけどね。なお、阻害剤は分かるが活性剤がどういう機構なのかも気になる。- AMR: Anti-Microbial resistance
生物物理学会誌 「統計熱力学計算と進化分子工学を用いた GPCR 安定化変異体の創出手法」
千葉大村田グループがこれに取り組んでいることはあちこちで耳にしていたが、具体的にどういう方法なのか、本記事で初めて知った。本質的には疎水性コアのパッキングを良くするというありがちなことであって、その迅速な計算に幾何学的手法を使っている点が新規なのかな。邪悪にも特許を取得している(JP6533324B2, EP3163481B1)が、特許が認められているのも幾何学的手法に限定されているようだ。
発現とスクリーニングに大腸菌や酵母を使っているが、これらではほとんど発現しない系だとどうするのか気になる。HEK や Sf9 でも同じことはできると思うけど。あと、融合させた蛍光蛋白質で発現量を評価する手法だと、それだけが切れたものが混ざってくると思うし、実際この例でもそうなっている。活性型変異体を捕まえるために酵母の HIS 要求株を使った方法も紹介しているが、そういうアプローチのほうが筋がいいと思う。従来法で構造が解けている 5-HT2A や A2AR じゃなくて、構造未知な GPCR、特に正確なホモロジーモデルを組むのが難しい枝に存在する GPCR をこの方法で安定化し、構造解析を達成できるかが正念場だ。生物物理学会誌 「ATP 合成酵素から進化したマイコプラズマ滑走モーターの構造」
これは面白い。モータ部分と足蛋白質の動きの関係とか、今後の研究が楽しみだ。生物物理学会誌 「海外だより ~構造解析ソフトウェア開発の本場から~」
神のエッセイ。いろいろな国や専門の人がいることで「同じ背景が共有されていないことが,逆に心地よく思っています」というのは完全同意。とりも帰国して 2 年半、均質性の高い周囲に退屈してきた。一方、「毎月欧州内旅行をしても赤字にはならないと思います」は理解できぬ。欧州内旅行したら少なくとも 1000 ポンドくらいかかるだろうに、月 2000 ポンド程度の手取りに対して家賃と光熱費だけで月 1000 ポンド以上な状況でどうやって回すんだ……。生物物理学会誌 「アスガルドアーキアの持つ内向きプロトンポンプ型ロドプシン: シゾロドプシン」
動物型と微生物型ロドプシンが進化的に独立って本当なの? TM の配置がなんとなく似ているのも収斂進化!?BME 「宇宙へ行ったメダカ ―宇宙におけるライフサイエンス研究―」
宇宙でもきちんと姿勢を保てる系統を選抜したというのを初めて知った。その機構として、前庭系より視覚を優先するという仮説が述べられている。放物線飛行による擬似無重力下で暗くすると姿勢を保てなくなるという知見があるそうだが、だとすると、宇宙で産卵の概日リズムを維持するために暗くしている間はどうなっていたんだろう。バーチャル学会 2022 "VR 酔い・平衡障害を VR で鍛える" これ、J-STAGE に載るような本格的な集まりだったのか。残念ながら、文章はかなり荒くて読みにくい。平衡障害についての説明ばかりで、肝心の VR トレーニングの内容の詳細や効果の検証がない。
日本 VR 学会論文誌 「ドラゴンアバタを用いたプロテウス効果の生起による高所に対する恐怖の抑制」
ワクワクする知見がたくさんあって面白かった。年齢・性別・種族が違うアバターのみならず、動物型やロボットのアバターにも身体所有感を誘起できるのってすばらしい。ただ、触覚フィードバックが必要というのが、気軽な実装にはネックになるなあ。PC watch "大原雄介の半導体業界こぼれ話 dGPU 部門も危うい? 本業回帰する Intel"
うーん、NVIDIA への対抗馬として Intel Arc GPU には頑張ってほしかったけど、厳しいのか……。FPGA が駄目だったのは、まあ、10 nm プロセスの立ち上げ遅延で 5G に乗り遅れたというのはあるにせよ、やはりもともとデータセンタ向けとしては微妙だったのかなと思う。一時期の FPGA 押しはすごかったよね。
それはそうと、Intel 各部門をはじめ、初出の略語はちゃんと説明してほしい。- PSG: Programmable Solutions Group
- DCAI: Data Center AI
- NEX: Network and Edge Group
- CCG: Client Computing Group
- AXG: Accelerated Computing Systems and Graphics Group
- PSM fiber: Parallel Single Mode fiber
- eASIC: FPGA みたいに共通のゲートアレイを使いつつ、配線の切り替えを電子的ではなく配線層のマスクで行うものらしい。FPGA より高効率・高速でありながら、全層カスタマイズする ASIC ほどのコストはかからないというもの。Structured ASIC の一種。
PC watch "M3 Max の MacBook Pro を M2/M1 Max と比較。世代を重ねて性能はどれだけ上がったのか?"
CPU/GPU 性能は並でいいからストレージやメモリに余裕を持たせたいという場合に割高になりすぎてて、自分の中で選択肢から外れた。なお、マグネットビュアシートなるものを使っているが、磁性流体によって静磁場を確認できるもののようだ。PC watch "Meteor Lake はどのように 3 種類のコアを制御するのか" いくら新人ライターとはいえ、この英語の機械翻訳みたいな変な文体を編集部は修正すべきだと思う。読みにくくてかなわん。それとも最近の技術者は機械翻訳で資料を読むからこういう文体に目が慣れてるんだろうか。
例えば「Meteor Lake では、SoC タイル E-コア(LP E-コア)を追加した。これらは、新たにアーキテクチャに追加したLP E-コアであり、低電力とエネルギー効率を実現するために用意された」の部分、LP E コアは一種類なんだから、日本語なら「これら」じゃなくて「これ」で受けるべきでしょ。それに「新たにアーキテクチャに追加した」は一文目と内容が重複。LP E cores, which are ... みたいな英語原文があって(あるいは英語で発想して)、それを訳してるのかなと感じてしまう。「エネルギー効率を実現」もなんか英語的。日本語なら「エネルギー効率を改善」とかじゃない? 「これは、OSのスケジュール決定を最適化するための最良のテクノロジの1つとなる」も、明らかに英語の言い回しだよね。内容も宣伝的だし、Intel のマーケティング資料か何かを訳してるのかなあ。