R vs R plot

twinning のテストにはいろいろな手法があるが、空間群の間違い(ここでは真の対称性よりも対称性の低い群を選んだ場合を指す)や回転偽対称の存在にも強いのは、R vs R plot だと思われる。実行方法も簡単で、phenix.xtriage にPDBファイルと構造因子をつっこめばいい。弱点は、既にある程度完成したモデルが必要となることだ。詳しくは文献1を見ていただきたいのだが、自分の理解のメモとして:

R_{twin} は、今考えている twin operator で同一視される反射同士の強度の「一致度」を示すものだ。R_{twin}^{obs} のほうは実験的に測定した強度でこれを行い、R_{twin}^{calc}のほうはモデルから(twinning がないとして)計算した構造因子(の二乗)でこれを行う。

R_{twin}^{obs} は perfect twin ならば、 50:50 で強度が混ざるので、完全に一致して 0 になる。逆に twin でない場合は、関係ないもの同士の一致度を見ているので、すごく大きくなる。といっても、「デタラメな構造でも R free は 55% 程度にしかならない」原理により、その程度だ。partial twin の場合は、中間となる。

R_{twin}^{calc} のほうはどうか。モデルからtwinning がないとして計算しているので、twin operator で同一視される反射同士の強度が一致するわけがない。したがって上の理屈により 50% くらいになる。

モデルが完璧ならば、I_calc と I_obs は一致する。したがって、R_{twin}^{calc}R_{twin}^{obs} も一致する。現実には、R factor 分のズレがあるので、完全には一致しないが、「だいたい」一致するということでいい。twinning が入ってくると、R_{twin}^{obs} がどんどん0に近づく一方で、R_{twin}^{calc} は変わらないので、差が開いていく。これが、論文の式(2)だ。

次に回転偽対称 rotational pseudosymmetry がある場合を考える。偽対称とは、より対称性の高い空間群の要素である対称操作が「近似的に」存在することをいう。例えば、I4 と I422 を比べると、I4 に a 軸での 180度回転を加えれば I422 になることが分かる(b 軸での 180度回転は、a軸周りの二回軸とc軸周りの4回軸から自動的に発生する)。I4でのアシメに2分子入っているとして、この2つがa軸周りの180度回転で完全に重なるならば、正しい空間群は I422 である。ところが、2分子のコンフォメーションが微妙に異なり、厳密には重ならないというとき、二つは等価ではないから、空間群は I4 で正しい。これが偽対称である。あるいは、アシメの2分子は完璧に重なるのだが、回転軸が a 軸から 少しズレているとしよう。この操作はもはや I422 の要素ではない。非結晶学的対称操作 Non Crystallographic Symmetry (NCS) である。これも偽対称である。

さて、偽対称があって、twin operator を近似していると何が起こるか。twin operator で重なるべき反射が、もともと同じだということになる。したがって、R_{twin}^{calc} も低下を始める。これが真の対称になった場合、R_{twin}^{calc} は 0 になる。もちろんその場合は R_{twin}^{obs} も 0 である。こうなったら、空間群の間違いと断定できる。

では中間のケースはどうなのか。実は、身もフタもない話だが、「グレーゾーンがある」というのが文献2に書いてある。R vs R plot によって病的結晶を快刀乱麻を断つが如く診断できるという話で、気分よく書いてきたのに、オチはこれである。

文献

1. Lebedev, Andrey A., Alexei A. Vagin, and Garib N. Murshudov. "Intensity statistics in twinned crystals with examples from the PDB" Acta Cryst. (2006). D62, 83-95 (http://scripts.iucr.org/cgi-bin/paper?ba5089 にて Open Access)
2. P. H. Zwart, R. W. Grosse-Kunstleve, A. A. Lebedev, G. N. Murshudov and P. D. Adams. "Surprises and pitfalls arising from (pseudo)symmetry" Acta Cryst. (2008). D64, 99-107 (http://scripts.iucr.org/cgi-bin/paper?ba5111 にて Open Access)

さらに述べるべきこと

本当は以下を述べるつもりだったが、とりあえず公開してしまおう。

空間群の間違いはなぜいけないか: 反射が相関してしまうことによる精密化の問題。
Test set の選び方: twin operator や pseudosymmetry operator で重なるものは、セットで扱う。phenix に任せればよい。thin shell のこと。