分子動力学法

注意: 勉強中につき間違いがあったら教えてください。

分子動力学法 molecular dynamic は、なんとなく分子がうにょうにょ動くのを見て楽しんだり、「シミュレーション中に A から B へ状態が遷移しました」と定性的に述べるだけが能ではない。はたして、何を見ているのだろうか。

分子動力学法によって得られる軌跡 trajectory の定量的な解析としてよく行われるのが、ドメイン同士の角度や残基間の距離といった幾何学的な量の変化の時間変化をプロットすることである。系が平衡状態であれば、これらの値は何らかの値を中心にゆらぐことが想定される。また、リガンド添加などによって系が状態変化すると、値の分布が変化することが期待される。

「何らかの値を中心に揺らぐ」のは、系が熱エネルギーを持っているからだ。一方、量子化学計算で化合物の構造最適化をする場合のように、系の温度として T = 0 を想定すると、内部エネルギーが最小となるコンフォメーションが選択される。

「ゆらぐ」ものを捉えるために、値の分布を知る必要がある。それが分かれば、平均や分散といった統計量に要約することもできる。生体分子の分子動力学法では、粒子数が固定され、温度も一定な(熱浴に接しているという)系を考えるのが普通だ。これは統計力学ではカノニカル分布と呼ばれている。ここで言う「分布」とはどういうことか。エッペンドルフチューブの中に注目する分子を1つだけ溶かした溶液を閉じ込めて、恒温槽に入れる。このチューブを無数に用意して、ある瞬間にそれぞれのチューブの中でドメイン間の角度といった注目量がどうなっているかを調べてヒストグラムを作るというイメージだ。

これは系を大量に用意した場合の分布だが、代わりに系を1つだけ用意して、一定時間ごとにスナップショットを取り、注目量を測定する。つまり時間方向で分布を考えることもできる。この2つが「同じ」分布を与えるだろうというのが、統計力学の考えかたである。その背景にあるのがエルゴード仮説であるという話を聞いた時は、全てが繋がって腑に落ちる気がした。ところが最近、実は統計力学エルゴード仮説は本質的ではないし、エルゴード性が証明されていない系も多いと知って驚いた。とすると、分子動力学法で1つの系の時間発展を観察することでアンサンブルの分布を得ようとするのはどう正当化されるのだろう? MD で扱う系ではエルゴード性が証明されてるのか? これについては、m-a-o 氏のはてなダイアリ にも記述があるのだが、残念ながら今の私にはすべては理解できなかった。

分子動力学法の概念については、東大アグリバイオインフォマティクス教育研究ユニットの講義資料が分かりやすい。