今回は XDS における最大の特徴、Kabsch transform の意味について説明する。論文の 2.3 節に対応する。
Kabsch transform は、goniostat 座標系から reflection 座標系への変換である。これまでに出てきた検出器系や実験室系との変換と違い、この変換は局所的である。局所的というのは、1つ1つの逆格子点ごとに固有の reflection 座標系があって、その点の近傍でしか変換が意味をなさないということだ。数学が得意な人は、多様体における局所座標系の貼りあわせをイメージするかもしれない。ただ、検出器上の1つのピクセルは、最近傍の反射がもつ局所座標系だけに属することになっており(pixel labeling)、局所座標系同士が重なりあうことはないから、多様体よりも単純である。
ある反射 hkl の固有座標系は、逆空間(goniostat 座標系で考えるのがよい)でその反射に対応する格子点を原点とし、基底ベクトル
によって定義される。1つ目の式は、 は に直交する長さ1のベクトルだと言っている。二つ目の式は 、こうしてできた と に直交する長さ1のベクトルが だと言っている。どちらも散乱ベクトル に直交するから、この2つのベクトルは Ewald 球の接平面上にある。 の向きを考えるために、 との内積を取ると、
となるから、 と は直交している。同様に との内積をとっても、
となって、こちらも直交している。ここで、内積が可換であることと、 (Laue 条件) を用いた。
反射座標系の成分のスケールとしては、角度(度)を用いることになっている。長さの単位として角度というのは不思議に感じられるかもしれない。これが可能となるのは、 と は Ewald 球の接平面上にあり、ごく近傍では Ewald 球の表面(曲面)とも同一視できるからである。Ewald 球面上の弧の長さは、半径 と中心角(ラジアン)をかけたものだから、長さの基準として角度を用いても問題ないのだ。
数式はこのくらいにしておいて、意味について考えよう。検出器上で観察される spot profile は、still shot の場合、次のような影響をうける。
- Ewald 球の曲率に由来する広がり (高角のほうが大きい)
- スペクトル幅による広がり (高角のほうが大きい)
- sensor 厚みによる位置のズレ
振動写真の場合は、さらに次のような影響も加わる。
- 回転軸から遠い( が大きい)反射は、大きい線速度を持つ
これらを理解するために、まず、逆空間における1つ1つの「反射球」は、一定の大きさを持っていることを思い出そう。1つの単位胞をフーリエ変換したもの、つまり 連続的な molecular transform に無限サイズの格子に由来する逆格子を掛け算したものが理想結晶の逆空間を与える。実際の結晶は有限のサイズを持つから、その shape transform を逆格子点の各点に畳み込んだものとなる。詳しくは◯◯を参照。
一方、検出器上で観測される現象は、#未稿