X1-turbo と壊れたフロッピーディスクドライブ

記憶をダンプしておく」シリーズ第3号。

PC-6001 の次に触れたコンピュータが、SHARP の X1-turbo である。このマシンは CPU として Z80 を搭載していた。

PC-6001 が現役で使われていた風景を私は知らないのだが、X1-turbo については覚えている。幼稚園に上がるか上がらないかの頃で、父親が「ラップテック」「アイスクライマー」「スタークルーザー」「ザナドゥ」「ウィザドリィ」といったゲームをプレイするのを横で見ていた記憶が、ごく微かにある。最初の2つはアクションで、次がシューティング、残りの2つは RPG である。ジョイスティックを2つも持っていたところを見ると、それなりに好きだったのだろう。今の父はまったくゲームをしないので、少し意外である。

X1-turbo のモニタにはテレビチューナーがついていて、テレビが映るし、コンピュータの画面を重ねることもできるのが売りになっていた。夕方に父がこのモニタで「北斗の拳」を見ていたのも、ぼんやりと覚えている。今調べると、「北斗の拳2」でも初放送は1987年で、私はまだ 2, 3歳なので、随分昔のことを覚えているものだ。もしかすると再放送だったのかもしれない。

90年台前半、X1-turbo は父親の職場でタイムレコーダーとして使われていた。父が書いた HuBASIC プログラムによって、従業員の出勤・退勤時刻をフロッピーディスクに記録し、月末に給与を計算できるようになっていた。このプログラムはBASIC プログラムとしては比較的長かったように覚えている。私は小学3年か4年の時、そのソースコードを熱転写プリンタで感熱紙に印刷して眺めていたが、くるくる丸めると結構な太さになった。税金の計算をするルーチンなど、何をやっているのか分からなかったのを記憶している。自分の机の正面の引き出しに入れておいたが、感熱紙なので、今はすっかり色が消えてしまったことだろう。

この X1-turbo は、ある時、フロッピーディスク・ドライブ(FDD) が壊れてしまった。読み込みは全く問題ないが、書き込みができないのである。書き込みをすると、ディスク内容が破壊されてしまう。本機には FDD が2つ付いているのだが、どちらもダメである。父は大変残念がって、ジャンク屋で同型のドライブを探したり、シャープに FAX を送って交換部品がないか問い合わせたりしていた。問題特定の過程は覚えていないが、あちこち部品を変えたり、IO ポートを BASIC から叩いたりした挙句、FDD そのものではなく、メインボード上のフロッピーディスク・コントローラが怪しいのではないかという結論になったのだった。

後に、私が、FDD のローレベルの仕組みを学んで「想像」したところでは、FDC の書き込み用クロック生成部が怪しい。そのため、所定のセクタを書き換えようとしても、範囲をオーバーランして隣接セクタを破壊してしまう。読み取りに問題がないのは、ディスク上の同期信号を利用して、クロックを補正できるからである。ちなみに、当時のディスク・プロテクト手法にこの原理を使ったものがあって、わざと非標準的なクロックでディスクに書きこんでおき、読み取りは同期信号のおかげで可能だが、通常の FDC では複製不可能というものがあったという。

このように FDD が壊れてしまったので、X1-turbo はタイムレコーダとしての役割を退いた。セーブができないので、ゲームも不可能である。アクションゲームなら問題ないだろうが、父親はその頃にはゲームへの興味をほとんど失っていた。そういう事情で、このマシンも私の好きにしていいよ、となったのだった。PC-6001 に続いて、このマシンでも私は BASIC を触るのだった。

続く。